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怪盗ニック対女怪盗サンドラ

ミステリ
エドワード・D・ホック / ハヤカワ・ミステリ文庫

 高額の報酬で盗みをはたらくニック・ヴェルヴェット。彼が引き受けるのは、価値のなさそうなものの盗みだけ。裏社会のニッチ市場を押さえる彼に、好敵手が現れた。サンドラ・パリス。「白の女王」とも呼ばれる、元女優の美女だ。

 ある時は手ごわい敵として、ある時は心強い味方として、ニックとサンドラが奇妙なターゲットに立ち向かう10編を収めた短編集。

 かつてポケミスで刊行されていた『怪盗ニック登場』『怪盗ニックを盗め』『怪盗ニックの事件簿』が、しゃれた表紙をまとって文庫化された。そんなわけで、これは4冊目の作品集だ。文庫オリジナルで、アメリカでも2004年に発表されたばかりの新作も収められている。

 このシリーズのおもしろさは、「ニックがいかにして目的の品を手にいれるか」と、「なぜ依頼人はその品を盗みたがるのか」という二つの謎の絡み合いにある。

 そんな二つの糸に、「サンドラの盗みの手口」というもう一つの糸が加わるのがこの作品集。ニックとサンドラが最初から協力している作品もあるけれど、やはりそれぞれが独自の力でターゲットに向かって行く作品が内容も凝っていて楽しめる。

 本書に限らず、ホックの作品は「ミステリをあまり読まない人」に「いかにも推理小説な作品」をお勧めする時に適してるんじゃないかと思う。どぎつさ控えめのスタンダードな謎解きで、ミステリ屋さんの小粋な職人芸を堪能できる。

収録作

白の女王のメニューを盗め

 サンドラ・パリス登場。カジノを舞台にした盗みを巡って、二人の怪盗が火花を散らす。
 犯行声明代わりに「白の女王 不可能を朝食前に」という名刺を残す、サンドラのスタイルが微笑ましい。

図書館の本を盗め

 ニックの受けた依頼は、図書館にあるハメットの『影なき男』を盗むこと。いっぽう、サンドラが依頼人を誘拐しようとしていることを知ったニックは、彼に警告するが……
 いつもながらのニックもののエピソードに、サンドラの活動がさらなる謎を加える。「サンドラ効果」が発揮された一編。

紙細工の城を盗め

 ターゲットを狙って豪邸に忍び込んだニックは、殺人事件の容疑者に。苦しい立ち場のニックに、サンドラが救いの手を差し伸べる。
 ニックは「型どおりの仕事だ」と言うけれど、その「型どおりの仕事」に凝らされたさまざまな工夫こそが、このシリーズの魅力なのだ。
 それにしてもこの作品のサンドラ、やることが派手である。彼女には、ものごとを劇的に演出したがる癖があるようだ。

色褪せた国旗を盗め

 カリブ海に浮かぶ小国の大使館。そこに掲げられる古びた国旗がターゲット。だが、サンドラも同じ国旗を狙っていた……。
 サンドラとの競争がもたらす緊張感が心地よい。依頼人の動機は馬鹿馬鹿しいけれど、小国の苦渋を感じさせる。

レオポルド警部のバッジを盗め

 ホックが生んだ別のシリーズ主人公、レオポルド警部が登場する。
 一夜のうちに起こった、絵画盗難と殺人事件。窮地に立たされたサンドラを助けるため、ニックはレオポルドにある勝負を持ちかける。
 「紙細工の城を盗め」のニックとサンドラの立場を逆転させた作品。レオポルドに勝負を挑むというニックの振る舞いは、サンドラとは違った意味で派手だけど、そのための手段はやっぱり短編ミステリの主人公ならでは。

禿げた男の櫛を盗め

 ターゲットの持ち主、禿げた男が住むのは南部の丘陵地帯。酒を密造しているようで、警戒心が強く、来客を銃で追い払うことも少なくない。
 禿げた男の櫛というターゲットは、このシリーズならではのもの。もっとも、これはニックの物語としてはやや異色。実利的な動機に基づく依頼が多いこのシリーズには珍しく、情緒が勝っているのだ。
 全般に、ジョー・R・ランズデール作品のような雰囲気も漂う。幕切れが印象深い。

蛇使いの籠を盗め

 舞台はモロッコ。サンドラが付け狙うのは、ある蛇使いの持つコブラの入った籠。
 仕掛けはいたってシンプルで、エキゾチックな肉付けが楽しい。背景はずいぶん生々しいけれど、それを生々しく感じさせないのがホックの作風だ。

バースデイ・ケーキのロウソクを盗め

 武器を積んだ飛行機を盗もうとするサンドラの物語と、ケーキのロウソクを盗もうとするニックの物語が、意外な形で交錯する……のはいいんだけど、ちょっと接続の仕方が強引。ニックの物語は「いつもどおり」なんだけど……。

浴室の体重計を盗め

 テキサスにある牧場。その家の浴室から体重計を盗み出す、という依頼。ただしそこは野生動物飼育所で、牧場にはベンガル虎が放し飼いにされているのだ……。
 『馬鹿★テキサス』ならぬ「虎★テキサス」。サンドラも登場するけれど、雰囲気はいつものニックものに近い。

ダブル・エレファントを盗め

 オーデュボンの鳥類図鑑の実物大複製画。250ドル程度のこの絵を巡って、ニックとサンドラがしのぎを削る。
 サンドラの台詞からも推測できるように、こういう依頼の仕方って、すさまじく当てが外れる危険があるような……

2004/08/15(日)

日常

今週は勤務先は休み

……だったけれど、葬儀に参列したり原稿を書いたりと、用事に追われるうちに過ぎていった。

もっとも、その合間にはこんなゲームで遊んでいたりするのだが。

ISBN:B00006C2HA

かれこれ10年くらい前のゲームを、今時のグラフィックでリメイクしたもの。もっとも、射撃の爽快感を重視していた旧作に比べ、こちらは暗闇を活かした緊張感の演出が主体(そんなわけで、グラフィックに凝っているわりに画面はたいてい真っ暗だ)。

「合間」と書いてみたものの、実際は恐怖と緊張で疲れてしまうので一日30分程度しかやっていない。

……なんてことを書いてないでさっさと原稿まとめよう。

2004/08/01(日)

日常

愉快(?)なニュース。

「マフィアが自作自演TVドラマ 子分ら総出演 ロシア」

http://www.asahi.com/international/update/0801/002.html

ロシア・マフィアの一味が、自分たちでギャング映画を撮ったという話。

  • 親しい警官に「汚職警官」役を依頼して断られた
  • マフィア同士の抗争でメンバーが殺されて、キャストの変更を余儀なくされた

といったエピソードが実に味わい深い。

フィクションの中の出来事が現実に起きることがたまにあるけれど、まさか小林信彦の『唐獅子株式会社』ISBN:4101158010が現実になるとは思わなかった。

夜は江東区花火大会に。暑い日が続いていたけれど適度に涼しく、しかも川岸で間近に花火を眺めて大いに楽しんだことでした。

2004/07/31(土)

日常

今月は本業が大忙し

というわけでページの更新もずいぶん滞ってしまった。

本を読んでいたのはほとんど通勤電車の中だけ。

どんなものを読んでいたかというと、主なところで……

  • ハドリー・チェイス『ダイヤを抱いて地獄へ行け』
  • ハドリー・チェイス『貧乏くじはきみが引く』
  • ハドリー・チェイス『ミス・クォンの蓮華』
  • ハドリー・チェイス『ある晴れた朝、突然に』
  • ハドリー・チェイス『射撃の報酬5万ドル』
  • ハドリー・チェイス『群がる鳥に網を張れ
  • ハドリー・チェイス『幸いなるかな、貧しき者』
  • エリック・アンブラー『暗い国境』
  • エリック・アンブラー『インターコムの陰謀』
  • 朝松健『一休暗夜行』
  • 朝松健『一休破軍行』
  • 朝松健『一休魔仏行』ISBN:4334075703
  • J・ロバート・ジェインズ『万華鏡の迷宮』ISBN:4167661683
  • 小川勝己『狗』ISBN:4152085789

……と、最後の3冊以外は再読ばかり。しかも日々是チェイス。

2004/07/16(金)

日常

「このミステリーがすごい!」大賞の

選評その他を書き終える。