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Bookstack

2006/05/29(月)

日常

[]元気なぼくらの元気なおもちゃ / ウィル・セルフ

ISBN:4309621899

ちょっと「手強い」感じの短編集である。読み終えたときに感じるわけのわからなさとか。

全8編中5編を読み終えたところ(ページ数では半分くらい)。以下、読み終えた短編の印象だけ簡単に。

リッツ・ホテルよりでっかいクラック

本当に題名どおりの話である。なんだこりゃ。

虫の園

牧野修とか田中啓文とか小林泰三が書きそうな方向に邁進することもできたのだろうけど、その一歩手前で踏みとどまったお話。

ヨーロッパに捧げる物語

ヨーロッパ統合にまつわる軽妙なホラ話。オチはあからさまに見えている。

やっぱりデイヴ

至る所でデイヴに遭遇する男の物語。パラノイアックな陰謀史観臭にウィルソン・ブライアン・キイの妄想を思い出した。

愛情と共感

「内なる子供」が実体を備えて、大人と一緒に暮らしている……という社会。そんな妙な設定をひねり出したのも、このオチをやりたかったからなのか? 傾向は全く異なるけれど、この唐突なひっくり返し方に[4336039607:ウラジーミル・ソローキン]を連想した。

[]夢見る惑星フォルゴーン / E・C・タブ

ISBN:4488674364

主人公とヒロインの関係は第一巻の変奏にも見える。二巻目にして早くもシリーズのお約束事項がちゃんと形成されている様子で、非常に安定した感じ。

『バトル・ロワイアル』ばりの命を賭けたゲームに駆り出されるという展開は、その後のシリーズでもよく使われていたような気がする。

2006/05/28(日)

日常

[]嵐の惑星ガース / E・C・タブ

十数年ぶりに再読。

ISBN:4488674356

このシリーズ、話を盛り上げるために謎解きの趣向を盛り込んでいることが多いのだが、本書もそのひとつ。昔の本格ミステリみたいな古式ゆかしい物理トリックが使われていたりするのだ。

[]夢見る惑星フォルゴーン / E・C・タブ

デュマレスト・サーガ第2弾。昨日出かけたついでに購入。

ISBN:4488674364

題名に反して、フォルゴーンに行くのは後半になってから。前半は惑星ハイヴでの権力抗争が描かれる。抗争の鍵を握るのは、有力者一族のお嬢様。超能力少女でデュマレストに一目惚れという、たいへん素晴らしいシチュエーションである。

このシリーズに出てくるヒロインたちは、どちらかといえば少女に近いのかもしれません。このほうが、日本人には親近感が持てるのではないでしょうか?(訳者あとがき)

わははは。

そういえば昔読んだときには気づかなかったけど、本書の原題は"Derai"。ヒロインの名前をそのままとっているのだ(アンドリュー・ヴァクスみたいだね)。本シリーズにおけるヒロインの重要性がうかがえる。

[]カレンの眠る日 / アマンダ・エア・ウォード

ISBN:4102159517

死刑囚、彼女に夫を殺された女性、そして囚人を診察する医師。死刑執行日に向けて、三人の女性の運命が絡み合う……というお話。

[]応募原稿第1弾

……が到着しました。締切は5/31なので、これから発送しようという方はご心配なく。

翻訳ミステリ座談会:直井明氏×吉野仁氏×村上貴史氏

ミステリマガジン創刊50周年記念イベント・全3回の最終回。昨日に続いて、今日も三省堂神田本店へ。

進行はミステリマガジン編集長・今井さん。主なトピックはこんなところ。

  • ミステリマガジンの思い出
  • 戦後日本の翻訳ミステリ史
  • ミステリマガジンに望むこと
  • 翻訳ミステリのこれから
  • 書評について

途中、今井さんがお客さんから意見を求めようとしたものの、特に手が挙がらなかったので

「じゃあ古山さん」

と、いきなり球がこちらに飛んできたものの、うまく対応できずパス1。インプロヴィゼーションの苦手な男です。

いちばん盛り上がったのは後半。翻訳ミステリはなぜ売れなくなったのか? という話題から。これは村上さんも指摘していたけれど、他の娯楽に時間を取られて、本を読む時間などない、というのは大きいと思う。

この話題から派生したのが、書評のあり方に関する話題。ここでもう一度今井さんから球が飛んできて、今度はどうにか対応。そのあと杉江松恋さん→千街晶之さん→三橋暁さん→小山正さん……と、客席にいた書評家/評論家な人たちに次々と打順が回っていった。

終了後には皆さんで飲んでいたのだが、その席でもこの二つの話題を続けていたことです。

座談会でも語られていたことだが、ミステリマガジンの特集はもっといろいろ活用すればいいのに、と思った。(これまた座談会で語られていたことだが)フェアなんぞで復刊させる本を、特集のテーマと連動させるとか。「ミステリ好きならみんな読んでる雑誌」という状態ではないのだから、雑誌の枠内にいるだけではできることにも限りがあるだろう。

最後に、座談会の中で紹介された、直井さん/吉野さん/村上さんのおすすめベスト3を挙げておこう。

直井明氏

ISBN:4150773025

ISBN:4150017425

ISBN:4150404895


吉野仁氏

ISBN:4102286055

ISBN:4102286063

ISBN:4488235069

ISBN:4167218402


村上貴史氏

ISBN:416766187X

ISBN:4150402167


ISBN:4150410321

ISBN:4150410356

ISBN:4150410380

ISBN:4150410402

ISBN:4150410410

2006/05/27(土)

日常

対談:原籙・小泉堯史『映画とミステリ』

『ミステリマガジン』創刊50周年記念イベント(お知らせ)。全3回のうち第2回(第1回は昨日だったけれど、仕事の都合で参加できず)。

そんなわけで、雨の中三省堂書店神田本店に行ってきた。

小泉堯史は黒澤明に師事し、長年助手を務めてきた経歴の持ち主。原籙が黒澤プロで仕事をするようになったころからの付き合いだそうだ。黒澤明から「いいシナリオを書くためにはミステリを読め」とすすめられていろいろ読んだけれど、あまりたくさんは読んでいません……とのこと(とはいえ、ハメットやマクベインやレナードやマッギヴァーンなんて名前はすぐ出てくるし、ジョゼ・ジョバンニはお気に入りで、ポケミスのは全部読んだそうだが)。

両氏の長年にわたる付き合いや映画の話を中心に、約1時間半。いくつか話題をピックアップすると……

  • 映画のシナリオは撮影中に変わってゆく。最初のシナリオが本になっていることもよくあるので、実際の映画と見比べてみるのも一興。
  • 原籙:小説は何度も読み返せるし、映画も最近はDVDで同じ作品を繰り返し見るのが簡単になったけれど、もともとどちらも一回性の強いものだと思う。(←これは強く同意)
  • 「原作に忠実に映画化する」なんてオファーもあるけど、それならわざわざ映画にする意味あるの?
  • 原籙はもともと「映画になるようなものを」と思って小説を書き始めたが、「小説として優れたものを」という思いが強くなり、自作の映画化には乗り気ではないらしい。小泉氏曰く、特定の俳優が沢崎を演じて、イメージが固定してしまうのはよろしくないだろう……とのこと。
  • 小泉堯史は原籙脚本で時代もの娯楽作品を撮りたいけれど、沢崎シリーズの新作等々で原籙の予定が埋まっているので、まだまだ先になりそう……。
  • 好きな映画監督は…… 原籙:ルネ・クレマン。 小泉堯史:やっぱり黒澤明。
  • 両氏ともヒッチコックは苦手。「クランクインしたところで全て決まっているような……」「映画を甘く見てるような……」

ミステリ話は薄めではありましたが(きっと昨日たくさん話したのだろう)、充実したイベントでした。

ちなみに三省堂1Fではミステリ本のフェアを開催中で、原籙氏がおすすめするのはこの3作。

さらば愛しき女よ

ISBN:415070452X

まあ、やっぱりチャンドラーは外せないでしょう。「チャンドラーは初期がよい」とのこと。たしかに『プレイバック』とかおすすめされても困ってしまうわけだが。


影の護衛

ISBN:4150710589

一時期、氏にとってギャビン・ライアルとロス・トーマスは「最高の小説家」だったとか。ちなみに映画化されている。

女刑事の死

ISBN:4151756019

「最高の小説家」だけど、決して読者に親切に手取り足取り書く作家ではないので、おすすめするのは難しい。それがロス・トーマス。そんな彼の作品の中でも、比較的おすすめしやすいのがこれ。

私はハヤカワ・ミステリ文庫版の解説を書いたので、これが挙がるのはちょっと嬉しい。ちなみに原籙氏はミステリアス・プレス文庫の『五百万ドルの迷宮』の解説を書かれている。

[]神の血脈 / 伊藤致雄

第6回小松左京賞受賞作。

ISBN:4758410593

遠い昔、異星人に特殊な能力を与えられた一族がいた。時は幕末。一族の子孫・風之助は、老中・阿部正弘や若き勝海舟、あるいはペリーといった人々に干渉し、幕末の日本を密かに動かしてゆく……。

端整なできばえの時代小説。ただ、その端整さゆえに、伝奇小説としてはこぢんまりとした印象が残る。異星人の力を得た風之助の超人ぶりは鮮やかで、物語も五千年におよぶ広がりを持ってはいるのだから、もっと羽目を外してもよかったのでは。

ほか、ちょっと気になったのは、風之助の言動。幕末の人間なのに妙に現代人らしさが感じられる。そういう人物だからと言ってしまえばそれまでだが、単に現代を先取りするのではなく、幕末とも現代とも異質な精神性のほうが印象深かっただろう。

結末の意外性は巧くできているけれど、強烈な伏線があるとさらに良かったと思う。

……と文句が多いけれど、この端整さゆえに読みやすく、奇異な物語にスムーズに入り込むことができた。

[]神のはらわた / ブリジット・オベール

相変わらずの暴走悪酔いドライヴである。痛そうな格好で犯行に臨む猟奇殺人鬼「缶切りパパ」と、そいつを追うコート・ダジュールの警察の物語だ。

ISBN:4151708103

……が、ブリジット・オベールであるからして、ストレートな警察小説/サイコ・スリラーへと向かうことはまったくない。

捜査を率いるジャノー警部はセクハラおじさん。美女のローラには悪い霊が憑いている(後述)。研修にやってきたローランはMacとFBIのマニア。ジャノーの上司、マルティニ警視はミステリ新人賞の応募原稿を執筆中(まだ1行しか書いていない)。結局いちばん役に立つのは、刑事になることを夢見る一介の巡査、マルセル・ブランだったりする。

この脱力を呼ぶ面々が殺人鬼を追う。残虐さとブラックユーモアと間抜けぶりが同居した独特のドライヴ感は、あなたの脳をよれよれにすることだろう。

たとえば、登場人物が映画を見に行くと……

彼らはハリウッド映画の超大作を見てきたのだ。超巨大なタコの話だ。そのタコの超かわいい子供が超おバカな科学者に誘拐され、巡航客船に乗せられた。それでタコは超憤慨してその客船のあとをつけ、船を沈めて愛する赤ちゃんを取り戻そうとしていた。

……という超クールなことになってしまう。

ちなみに、前作『死の仕立屋』に登場した連続殺人鬼が、地獄に堕ちることもかなわないままローラの脳内に巣喰っている。でも何もできずに悪態をついているだけ。こんなのがシリーズのレギュラー登場人物だったりするのがオベールです。

本書最大の脱力シーンはエピローグ。何やってんだよ!!

2006/05/25(木)

日常

[]神のはらわた / ブリジット・オベール

ISBN:4151708103

ブラックユーモアたっぷりのサイコ・サスペンスだった『死の仕立屋』の続編。雰囲気は前と同じようである。つまりお下劣変態路線。そもそもオベールはそういう作家であることが、作品が訳されるたびにはっきりしてきた。初期の作品では猫をかぶっていたにすぎない。

『マーチ博士~』あたりを絶賛した人の中には、もう呆れている人も少なくないだろう。が、私は熱烈に支持したい。猫の皮をかぶった変態。もう猫はどこかに捨てたようだが。

[]元気なぼくらの元気なおもちゃ / ウィル・セルフ

ISBN:4309621899

ひねくれ気味の短編集。

[]FLUSH / カール・ハイアセン

ISBN:4652077742

ハイアセンのジュブナイル作品。

ルート350

小説
ルート350 古川日出男 / 講談社

全8編を収めた短編集。読んでいるうちに思い出すのは、作者の別の長編に記されたこの言葉だ。
でも、あなたたち、この世にフィクション以外のなにがあると思ってるんだ?
『ベルカ、吠えないのか?』
何を語るのかと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが「どう語るのか」。どれも作者らしさを感じさせる文体でありながら、一編ごとに「どう語るのか」を変えているので、それぞれの印象は大きく異なる。

収録作

お前のことは忘れていないよバッハ

親の駆け落ちやら何やらで一軒の家に寄り添って暮らす三人の少女と、一匹のハムスター……その名もバッハの物語。えらくひねくれた語りの様式が、最後の最後にストレートに情緒を刺激する。

カノン

東京湾に築かれた、東京にして東京ではない虚構の王国。夢の王国に憧れ、その一員となることを目指す女の子と、その破壊を目指す男の子の出会いが語られる。王国を支配するザ・マウスの神話と、複数の現実を放送するラジオの対置が面白い。

ストーリーライター、ストーリーダンサー、ストーリーファイター

事故で入院中に幽体離脱した十五歳男子。霊魂として、三人の同級生の意外な素顔をかいま見る……だけならなんてことのない話。ここに幾何学的な仕掛けを組み合わせ、それを綴るのは煩悩まみれの一人称という趣向。

飲み物はいるかい

妻と別れた男が「離婚休暇」をとって、ささやかな旅に出る。スケールは小さいのに、ちゃんとしたロードノヴェルに仕上がっている。

物語卵

インコを集めて「救済」した男“バードマン”の事跡を語る「僕」。さらに入れ替わり立ち替わり、さまざまな物語の「卵」が語られる。

一九九一年、埋め立て地がお台場になる前

二月と三月の狭間の一日に、開発中の埋め立て地“13号地”を支配する暴力。読みながら私が想起していたのは『モンスター・ドライヴイン』だった。

メロウ

知的早熟児たちの夏期講習キャンプでのできごとを描く、J.G.バラード『殺す』を裏返したような話。あちらの無機的な恐怖に対し、こちらには生々しい高揚感がある。子供たちの描写には、スタージョン『人間以上』を思わせるところも。

ルート350

これまたロードノヴェル。わずか三ページの間にいくつもの国々を通過するはなれわざ。